メキシコのこばなし

メキシコの湖畔のある小さな村で、一人の漁師が暮らしていた。

漁師は朝になると、小さな船で湖に出て、家族が食べる分と市場で少し売る分だけの魚を釣って、昼間に戻ってきた。

 

そして、昼に市場で新鮮な魚を売って、少しの現金収入を得ると、それでささやかな欲しいものを買い、午後はハンモックで昼寝をして過ごし、夕方になるとギターをつま弾きながら、友達と歌を歌って暮らしていた。

 

そこに一人のアメリカ人がやってきた。アメリカ人は漁師の暮らしを見て驚いて言った。

「なんということだ。この湖にはいい魚がたくさんいる。私ならもっと大きな船を作り、今の5倍の魚を釣って売上を上げるだろう」 

メキシコ人は言った。

「ほう、それでどうなるんだ旦那」

アメリカ人は言う。

「そしたら金を貯めるんだ。貯めた金でもっと大きな船を作り、もっとたくさんの魚を捕る」

メキシコ人は言った。

「ほう、それでどうなるんだ旦那」

アメリカ人は言う。

「たくさん金が溜まったら、水産工場を作り、ここで魚の加工もできるようにするんだ」

メキシコ人は言った。

「ほう、それでどうなるんだ旦那」

アメリカ人は言う。

「魚の缶づめを作って世界に輸出できるようになれば、莫大な利益を得ることができる」

メキシコ人は言った。

「ほう、旦那、それには何年くらいかかるようになるんです」 

アメリカ人は言う。

「私の計算では、君が1日12時間働くとして、20年ほどだね」 

メキシコ人は言った。

「ほう、旦那、それで20年経ったら、わしはどうなるんでさ」 

アメリカ人はすこし考え込んでから、言った。

「そうだな、朝から釣りをして、そのあとはハンモックで昼寝をして、夕方には友達とギターを弾きながら歌った暮らせるようになるんだ」

 

メキシコ人は笑って言った。

「旦那、そんな暮らしなら、もう、とっくに手に入れてますよ」

 

 

ー「世界一幸せな国、世界一豊かな国」より